情報家電は復活したのか

森さんの「幻想は半年でついえる:本当の成長を求めて」を拝見した。非常にごもっともだと感じました。


前世紀末の10年間、特に最後の数年から今世紀初頭にかけて、大手電機メーカーでは大幅な製造工程のリストラと大胆な製品ラインアップの絞り込みが頻繁におこなわれた。その成果として、当然のごとくV字回復に成功した。しかし、その過程で戦線から脱落したプレイヤーも多くいたためか、V字回復こそが成功への唯一の道のように語られることが多くなった。が、そもそも皆で激しいV字カーブを描く必要はなかったのだし、できることならそんな落ち込みなど必要としない長期的な戦略の策定とその粛々とした実行力の確保こそが重要だったのだ。それを忘れた議論をしても仕方がないことを、誰もが語るのをやめてしまっていた。


特に、この辺のくだりは、興味深い。

何をもって「V字回復」なのか

企業とは何のためにあるのか。企業の目的って何なのか。少なくても、どの企業に共通するのは、株主価値の最大化ということだ。こんな話、どの教科書にでも書いてある。


さて、森さんのおっしゃる、


一部の人々の憂慮をよそに、大手家電各社の経営陣とその取り巻きと化したメディアの多くは、日本中核産業の「復活」に歓喜した。そして、巨大な中国という新大陸の発見を今さらながら声高に宣言することで、更なる設備投資の拡大を正当化し、将来への成長の確信にすら言及した。その様子はあたかも実力だけでは到達できない目標をクリアするために自らの気力を奮い立たせ、同時に周囲の無意識的な支援行動を期待するときに行われる「自己達成予言」行為のように見えた。


と言われるようなことがどうして起こったのか。


確かに、営業利益という意味では、V字回復をしている。というよりも各社とも2001年頃が悪すぎた。リストラして、経費を削れば、当然のごとく利益はそこそこに出る。ここで重要なのは、売上がさほど変わっていない点、営業利益が「V字回復」したと言っても、たかだか3%(松下)、4%(シャープ)とかそこらであって、製造業として決して高い数字とは言えない。何故なら、この程度の利益率なら、為替や金利(例えば、日本国債)の変動で一瞬で吹っ飛んでしまうからだ。


結局は何も「回復」していないよ


というわけで、以上では、「V字回復」したと言われる営業利益であっても、十分回復したとは言えないということを述べた。

もう一つ大きな問題がある。株価だ。株価と言っても実際は、PBRとかMVAとかで見るわけだが、実際、松下のPBRはようやく1を超えたくらい、MVAに至っては未だ激しくマイナスのままである。


PBRが1ということは、ざっくり言ってしまえば、企業に投資せずにキャッシュで持っていても同じということだし、MVAがマイナスということは投下資本に対して、将来、価値を生みそうにないということを株主から宣告されているということだ。


森さんのおっしゃるように、マスコミ各社は本当にこういうことを理解しているのか甚だ疑問である。少なくてもこの2つの指標を見るだけでも、全く復活などしていないし、未だ、投資家からさめた目で見られていることくらいは明らかだ。特に、MVAがマイナスなのに声高に「復活」とか叫べるのがすごい。。。


経営は大変なのね


さて、随分、否定的なことをたくさん書いてしまったが、PBRを1以上にするとか、MVAをプラスにするってのは、意外と大変なのだと思う。


例えば、日産の場合でも、ようやくMVAがプラマイゼロになったくらいなのだから。。。どうも日産の例を見ているだけでも、ゴーンが約束した負債を全部返し終わって、そこからある程度のんびりと株価が上がって、ようやくMVAがゼロになったという状態だ。


ともあれ、これらのケースを少し計算してみて、経営者って大変なのね、と思いました。。。これが一番の収穫かもしれません。