そろそろAndroidとChrome OSについてひとこと言っておくか

(偉そうなタイトルでごめんなさい。)

なぜGoogleは2つもモバイルOSを作っているのか

まずはなんでこんな一見、無駄に見えることをしているのか。この疑問は正しい疑問だと思う。

Paul BuchheitというGmailの作者であり、FriendFeedのco-founderでもあり(Facebookに買収されたため、最近まではFacebookで働いていた)、最近Y Combinatorのパートナーになったスーパーマンのインタビューの中にこういう記述がある。
http://www.motherboard.tv/2010/11/15/fyi-facebook-s-paul-buchheit-the-inventor-of-gmail-did-not-work-on-fmail

Q: How was Facebook different from Google?


A: A lot of the differences are subtle. On the surface, they seem similar. They have the same people in many cases. They have a nice cafe and those things. But really the way things are run is quite a bit different. Mark is very involved in really all of the key product decisions at a very detailed level. It’s a much more focused product in terms of it’s just Facebook and there’s a strong desire to keep it that way. Google has a much more diverse approach and the founders operate at a level more like a venture capitalist.

FacebookGoogleはどう違う?」という問いに対して、

  • 表面的には似ているけど、全然違うよ。
  • Mark (FacebookのCEO)は、プロダクトの詳細な意思決定にまで関与している。
  • 他方、Googleの創業者たちは、どちらかというと、ベンチャーキャピタリストのように振る舞う。

この点は興味深い。つまり、Googleのマネジメントからすれば、AndroidChrome OSは自社の「ポートフォリオ」の中の一部であって、別に両方存在していること自体、矛盾しないと解釈できよう。この発想自体は、シリコンバレーのエコシステムそのものであり、Googleは(以前から言われているが)このシリコンバレーのエコシステムを社内にも構築してしまったのだ。


つまり、簡単に言うと、マネジメント視点で見れば、「社内でAndroidChrome OSを競争させている」という言い方が正しいのだろう。別に両方生き残らなくても構わない。社内でも競争して、マーケットでも競争して、勝ち残ったものだけが本当の勝者だ、といういかにもグーグルらしい、多産多死を許容するダーウィニアン・アプローチをとっていると見るのが正しい(と思う)。


で結局、どっちがいけてるの?

分かりませんw。が、時間軸でこれまでの経緯を整理すると大体のことが見えてくる。


Androidというのは元々は買収した会社。スクラッチからGoogleの中で作ったものではない。ある日突然、ものすごい勢いでAndroidに人材を投入し始め、わずか18ヶ月で「そこそこ」動くOSがリリースされた。

この開発スピードは本当に凄まじいと思うが、初期のAndroidは、最終的なUIをハードウェーカーにゆだねていることもあり、iPhoneに匹敵するというレベルにはとても到達していなかった。僕もDroid, Nexus One, EVO 4G, Nexus Sと過去に4つのAndroidバイスを持っていたが、「自分の携帯電話にしてもいいかなぁ」と思えるのはNexus Sのみで、それ以前の端末は正直、タッチパネルが思ったように反応しなかったり、動作そのものがもっさりしていたりと、とても使い物にならなかった。(これは多分に僕がiPhoneの素晴らしいUXになれてしまっているからなのだが、GoogleiPhoneとも競合すると考えているはずなので、少なくても初期のandroid端末はgoogle enoughでなかった。)

また、根幹がJava VMであるというのも、正直いけてない要素であると思う。Sun(Oracle)から訴訟されたり法的な面だけでなく、Java VMに依存しているのは、技術的な意味でも決して良いということにはならないだろう。


他方、Chrome OSはある意味「最もGoogleらしいOS」と言える。Chrome OSの前に、Chromeブラウザが発表され、それまで最強と思われたFirefoxよりも遥かに高速化されたブラウザは、あっという間にブラウザランキングに入ってくるほどダウンロードされた。この時に覚えた感動は「シンプルだけど高速なブラウザを作る、みたいな仕事させたらGoogleには敵わないなぁ」という感覚であった。

皆がChrome OSに期待しているのはまさにこの点で、インターネット時代にふさわしい「シンプルだけど高速なOSを作る」ということに尽きるのだと思う。Chromeブラウザの時の「期待よりも全然良かった!」という感動が更に期待値を上げている。

が、この開発が思ったように進んでいない。当初は2010のホリデーシーズンに最初のChrome OSが搭載されたTabletが発売されるという発表があったが、結局延期。


で結局、どっちがいけてるの?(再)

去年の後半に言われていたことは、「Androidtabletみたいな大きな画面には向かないから、携帯はandroid, タブレットChrome OSという使い分けが現実的」ということであった。僕も自分が買ったandroid端末のダメさと、Chrome OSへの期待から、「いつか全部のandroid端末にOS updateが走って、全てChrome OSになりました、という日がくるんじゃないか」と書いたほどだった。


が、しかし、現時点では、明らかにAndroid優勢です。
Android 3.0 (Honeycomb)のプレビューを見れば分かるように、もう明らかに「携帯はandroidで、tabletChrome OS」みたいな棲み分けは誰も考えていないことが明らか。
本来、去年のうちに最初の製品が発売されているはずだったChrome OSが遅れに遅れていて、Androidの3.0のプレビューが先に出てしまった、という勢いの違いを痛烈に感じる。
冒頭のPaul Buchheitも
http://twitter.com/#!/paultoo/status/14631053989773313

Prediction: ChromeOS will be killed next year (or "merged" with Android) http://ff.im/vdmVs

tweetしています。


ただし、まだまだ勝負はこれからでしょう。
冒頭に書いたように、社内でも猛烈な競争をさせられているくらい。何がどこでひっくり返るのか、良くわからない。
Androidは優勢であると言っても、2.3->3.0と2.3->2.4の両方のブランチが同時に走っているようで、これはメーカーからすればややこしくなるだけ。2.4は2.3の延長でインプリできても、3.0はプレビューを見る限り全然違うものだから、メーカー側が「中途半端に3.0をインプリしたデバイス」を発売して、(以前僕が感じたような)中途半端なUXを体験してしまう人が多数出るであろうことは容易に想像できる。
個人的には、Chrome OSにもっと頑張ってほしいが、いかんせん発売されてこないと何とも言えないので...

追記

@masahif2さんにご指摘いただいたので、一点だけ追記。
androidはJave VMと書いたが、正確にはDalvik VMというちょっと別物。Andy Rubinが以前から「Java VMよりいけてるVM」とずっと宣伝してきたので、厳密には別物。ただし、Javaで動いています。

追記2

id:astrobugにいただいたコメント

Chrome OS の中身はほとんどがChromeブラウザーです。モバイルブラウザーの代わりにChromeAndroidに載せればAndroid + Chrome OSとなります。今のChrome OSと同じものがほしいベンダー向けに、Chromeブラウザー付きAndroidからChrome以外の機能を取りやすいソースツリー構造にしておくこともできます。Google TVは既にChromeブラウザーを載せたAndroidになっています。

これもおっしゃる通り。AndroidChromeブラウザ使っているわけなので、もう「ブラウザさえChromeなら、OSはどっちでもいいんじゃねーか」という話なのかも。
Google TVもAndroidで動いているわけで、もはやChrome OSの出る幕無しか、という気もする。

いずれにしても、Googleにとって、ブラウザレイヤーはChromeブラウザのみで競争させずに、OSレイヤーでChrome OSAndroidを競争させている(競争させてきた)という表現が正しいはず。