NASAとGoogleに共通すること、違うこと

学会の合間を縫って、NASAKennedy Space Center@フロリダ、オーランドに行ってきた。ディズニーに行こうかどうか最後まで迷ったが、「僕らは科学者なんだからそりゃNASAだろう」と言うことで真面目モードでNASAを選択した。


何というか、一言で言えば圧巻だった。
今となっては、月に行くということ自体は科学技術的に全く新しいことはなく、むしろ産業化を待っているフェーズだと思うが、当時の様子などを振り返る映像を見たりしているうちに、その狂気ぶりがよく分かった。


(あまり教養に自信がないので多少間違っているかもしれないが)当時のアメリカはソ連との冷戦下にあった。宇宙へ行くということに関しても、ケネディが大統領に就任した時点では、ソ連に劣っていた。

ケネディ大統領、歴史的な演説をする

旧ソ連が、4月12日に宇宙船ボストーク1号にユーリー・ガガリーンを乗せて、初めての有人宇宙飛行を行ったのです。宇宙船の窓から地球を見たガガリーンの言葉は「地球は青かった」というもので、それ以来、地球を象徴するような言葉として定着しました。豊かな水に恵まれた「青い地球」として…。

しかし、アメリカにとっては、人工衛星スプートニク1号の打ち上げに続く大ショックでした。東西冷戦が続くさなか、何としてでもソ連に対する宇宙での技術的優位を回復しなければならない。これには大国としての威信がかかっている。では、そのためには…?ソ連以上の優位を世界にアピールするためには…? 具体的に何をすればいいのか…?答えは、ただ1つしかありません。これでアポロの使命と任務は決定的なものになりました。

1961年5月25日、ケネディ大統領は議会で歴史的な演説をします。「1960年代が終わる前に、アメリカは人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させるという目標を達成するだろう。これ以上に胸躍らせ、これ以上に印象的な、これ以上に重要なものはない」


はっきり言って文脈は滅茶苦茶だ。政治的な意図も大いにある。だが、ケネディは演説で

We will go to the moon. We will go to the moon. We will go to the moon.

と繰り返した。そして、アメリカが有する膨大な資源をNASAに投入した。最も優秀な研究者たちはNASAに集められた。そして、月に行くという大きな目標に全員がフォーカスした。
フロリダにあるKennedy Space Centerの膨大な土地、設備、そこで働いていた人たちの熱狂ぶりを見て、思わずGoogleを思い出した。


一体、NASAGoogleで何が似ているんだろう、と考えようとしたが、一つしか共通点が分からなかった。
共通するのは、トップサイエンティストたちを巻き込む大きなビジョンだけだと思った。「人類が月に行く」「世界中の情報を整理する」という大きなビジョン。はっきり言って、どちらも狂っている。それが出来たからと言って、どれだけ世の中が良くなるかなんてよく分からない。でも、そのビジョンが科学者たちを惹きつけて、大きな一つの目標に向かって、突き動かす。
科学者以外には一体どういう意味があるのかよく分からない。自分たちの生活がどの程度よくなるのかなんて全く想像できないだろう。でも、なぜかそれらは支持される。


Kennedy Space Centerで何度も聞いた言葉がある。

By nature, human beings are explorers.

この言葉こそが、大きなビジョンを支える唯一の根拠だ。これ以外には何もないが、これだけで十分だった。NASAGoogleもこの言葉と大きなビジョンだけで大きなイノベーションを成し遂げた。


もちろん、違いもある。NASAは主に政府(官)が主導したイノベーションで、Googleベンチャーキャピタルを含めたシリコンバレーの経済圏(民)が産み出したイノベーションだ。
ただ、一つだけはっきり分かったことは、アメリカの科学技術、ハイテクにおけるリーダーシップの取り方には驚くべき魅力があるということだ。