オープンソースとコアコンピタンス

オープンソース的な何か」について日々考えている。

オープンソース的な何か」と言っても、ライセンスの問題に興味があるわけではない。オープンソースが発達した場合に、イノベーションの形態にどのような影響がもたらされるかについてだ。この吉岡さんの素晴らしい記事にインスパイアーされたので書いてみる。

イノベーションはどっかで起こっている(東京で)

Innovation Happens Elsewhere (IHE) -- イノベーションはどっかで起こっている
オープンイノベーションの究極の姿はOSSオープンソースソフトウェア)である。LinuxハッカーPerlハッカーRubyハッカーも全部社外にいる。社外のイノベーションを取り込んで自社のサービスの根幹に据える。そして、すべてのイノベーションが外部にあるときに、どうやって自社のサービスの付加価値を高めるのか。
イノベーションの外部化だ。その時のビジネス戦略はどのような形になるのだろう。

通常、イノベーションは最終的には、営利企業にて起こる。イノベーションの源泉は大学や研究所である場合もあるが、最終的に社会に便益を享受させる役割を担うのは企業である。企業は資本主義というメカニズムの中で、圧倒的な加速度を持って、イノベーションを起こしていく。

競争戦略というのは、競争企業との格差を作り出すこととイコールである。自社にはあって他社には無い何かを作り出さない限り、競争には勝てない。オープンソースが発達すると、矛盾が起こる。自社「だけ」が知っていることを強みにしたいという(経営側の)考え方と、多くの先進的な知がオープンになっているという事実が矛盾する。

自社で利用する技術の大半がオープンソースであるというのは、経営的には信じられないくらい怖いことだ。一見、自分たちの強みがどこにあるのかを見失わせるからだ。水平統合を目指すにせよ、垂直統合を目指すにせよ、オープンソースに依存するということは、経営的にはものすごく怖いことなのだ。

だが、そうせざるを得ない理由が二つある。

第一の理由は、オープンソースの方が性能が良いという点である。垂直統合を目指して、閉じたイノベーションを目指した製品と、多くのエンジニアのちょっとずつの時間によって生まれた製品は圧倒的に後者の方が出来が良いということはもはや歴史が証明しつつある。WindowsよりもLinuxが、IISよりもApacheの出来が良いのは偶然ではない。

第二に、オープンソースを採用した瞬間に、圧倒的に多くのドキュメントがウェブ上にあることに気づく。垂直統合を目指している限り、参照すべき文書はイントラネット上に存在するものだけだ。これは従来であれば当たり前のことだった。ところが、オープンソースを採用した場合、多くのドキュメントは検索エンジンから探すことになるだろう。20年前に一体誰が、社内の開発上の問題を解決するのに社外の文書が役立つようになると想像していただろうか。つまり、オープンソースを採用することで、企業から見れば、(1円も給与を払っていない)他人の知までも利用することができるようになるのだ。

こうなると、必然的にオープンソースを採用せざるを得ない。だが、そうすることで益々コアコンピタンスが分からなくなる。この問題こそが現代の経営者が解くべき問題なのだと思う。要はバランスの問題なのだ。AppleAmazon Webserviseもオープンソースを採用している。だが、コアコンピタンスも明確に存在する。このバランス感覚こそ、オープンソース時代の経営者の条件なのだ。