サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台

「サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台」を読んだ。サッカー日本代表のマッチメイクの舞台裏についてここまで書いて良いのかというくらい詳細な記述でありながら、よくある暴露本の類とは一線を画した名著だ。

サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台

サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台

内容に入る前に、著者の当時の役職であった日本サッカー協会の専務理事(ゼネラルセクレタリー)というポジションはどういうものかというのを少し調べてみた。
まず、日本サッカー協会というのは財団法人。財団法人というのは(株主総会、取締役会によって運営される株式会社とは異なり)理事会によって運営される。現在の理事会のメンバーは、
http://www.jfa.or.jp/jfa/organization/rijikai.html
にある通りで、川淵前会長の後を犬飼会長が引き継いだというニュースは見たことがある。会長が1人、副会長が3人、専務理事が一人ということは、専務理事=社長みたいなものだと思えば良いはず。続いて、収支規模を調べたところ、なんと150億円/年くらいの売上がある。
http://www.jfa.or.jp/archive/jfa/organisation/report/2008/hyogi/pdf080712/080712_02.pdf
確かJリーグクラブで最も大きい浦和レッズでも70億円/年だったので、「日本サッカー協会の専務理事(ゼネラルセクレタリー)」というのは「年商150億円くらいの会社の社長」だと思えばいい。


本書は、基本的には著者の実体験を元にした回顧録のようなものである。その意味においては、How To本ではないし、普遍化した知識が得られる本でもない。だが、僕はこの本を読んで「絶対に負けられないインテリ戦争の戦い方」について少なくても考えさせられた。


前者の「絶対に負けられないインテリ戦争の戦い方」というのは、サッカー日本代表における国際試合を取り仕切るという仕事においての勝負の戦い方である。なぜ、「インテリ戦争」とまで書いたかというと、それは日本代表戦をスタジアムで観戦すればよく分かる。Jリーグの試合とは全く異質な雰囲気がそこにあり、良くない表現であることを承知の上で書けば、日本人は本当は戦争をしたがっているのではないかと思うほどの熱気と狂気に包まれている。その全てのマッチメイクを担うというだけでなく、オリンピック予選やW杯予選という公式戦では、文字通り負けは許されない。

例えば本書で出てくるように「オリンピック予選のフォーマットを決める場面でホーム&アウェイ、ダブルセントラル、シングルセントラルの3つがあり、監督はダブルセントラルかつ日本開催は後半にしたいと要求している。」という状況で理想通りの結果を勝ち取らなければならないというような勝負である。ビジネスでも似たような場面はありそうであるが、ここでかかれているのはオリンピック予選である。一旦失敗したら4年間は確実にチャンスが回ってこないという点で、圧倒的に我々のビジネス環境とは異なるだろう。そんな中、著者は数日前からのシミュレーションや当日の機転、さらには「神風」とも呼べる運の良さで交渉を勝ち抜き、結果として日本代表はオリンピック予選を勝ち抜けたわけであるが、このくだりは本当にドキドキしながら読んだ。

こうした勝負は本当の意味でのインテリ戦争だと思う。自国に少しでも有利になるようにゲームをコントロールする。しかもそれを暴力的な手段以外で。それも一旦決着がついたら4年間は二度とその勝負ができないことが事前分かっている。こんな制約条件の中での勝負をコントロールし、勝ち抜いていく様は読むだけで興奮を覚えた。僕は今までこんな勝負をしたことがあるだろうか。今後このような勝負をすることがあるだろうか。あるとすれば同じように勝てるだろうか。と思わず自分自身に問いかけてしまった。


他にも本書でたびたび登場する、アジア外交(政治)とサッカーの関係は非常にスケールが大きく興味深い。著者の経済産業省時代のシルクロード外交がサッカー界に転身した後も役立っているというのは、何かの因縁なのかもしれない。
いずれにしても、本書はビジネス本であり政治本でもある。スポーツビジネスに関心がある人、公共政策に関心がある人、大きな仕事をしたいと考えている若い人にはとてもお勧めの一冊だ。

サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台

サッカーという名の戦争―日本代表、外交交渉の裏舞台