洗濯機までオンライン化されていてびっくりした

Stanfordの寮に入って一番驚いたこと。それは洗濯機がオンライン化されていることです。

洗濯室は寮ごとに1つとかしかないので、皆の共有スペースです。僕の場合、部屋は4Fで、洗濯室は1Fなので洗濯しに行くのも結構大変です。
そこで、このサイトの出番です。

なんと、洗濯室にあるすべての洗濯機ごとに番号が降られていて、どの洗濯機が稼働中か、あるいは空いているかが全部見れます。また、「●番の洗濯/乾燥が終わったらメールで通知」という昨日もあり、ピックアップを忘れずに済むのでかなり便利です。

情報家電」が既に寮で実現されているよ、という話でした。

高いけどとても近代的なスタンフォードの学生寮

無事にスタンフォードに到着して、二晩寝ました。時差もだいぶ取れてきてよい感じです。

まず、スタンフォードではvisiting scholarは通常、学生寮には入れません。本来なら自分でアパートを借りなければなりません。

僕の場合、最初は9/1からvisiting scholarの予定だったのですが、多くの人のすすめで英語を何とかするために、英語のサマースクールに行くことにしました。サマースクールはEnglish for Foreign Students(EFS)というもので、6週間英語だけをやります。
大きくわけて、

  • 688 - Intensive English and Academic Orientation for Foreign Graduate Students
  • 688V - Intensive English and Academic Orientation for Visiting Scholars

という2つのコースがあり、前者はMBAなどの修士用、後者が研究員用です。(僕は後者を受講します。)
http://www.stanford.edu/group/efs/688v.html

このコースを受けている6週間の間は、身分が「学生」なので、学生寮に入れます。6週間後に引っ越すことになります。
サマースクールにapplyして合格すると、入寮希望を出し、どの寮に入るかがアサインされます。
僕がはいった寮は、恐らくこの近辺では最新の建物で、4階立てでエレベーターもあります。共用の洗濯場、コンピュータールームもあります。とても奇麗でびっくりで、建物も部屋もオートロックで日本のマンションみたいです。今は夏休みで人がほとんどいないので、とても静かで不気味なくらいですが、おとなしい日本人(?)としては最適です。

さて、この学生寮ですが、値段も結構高いです。そもそもスタンフォード大があるPalo Alto近辺というのは超高級住宅地で、東京よりも家賃が高いのではと思うほどなのですが(面積あたりだと都内の方が高いかもしれませんが、そもそも狭い部屋がないので1部屋にするとこちらの方が高いくらい)、値段も結構高いです。
公開されている料金表を見ると、
http://www.stanford.edu/dept/rde/shs/pdfs/grad_rates_09.pdf
僕がいるEscondido Villageのstudio, one-bathタイプは、 Monthly rateが$1,092(約10万円)です。僕は6週間いることになっているので、大体$1500(約15万円)払うことになります。一人部屋で月10万円ですから、山手線の中くらいの感覚です(もちろん東京より部屋は広いですが)。


と以上が寮のお話ですが、少し脇道にそれて、ここまで来るのに相当大変でした、という話を少し。

最初のトラブルは成田空港にて、荷物の重量制限オーバー。今回は片道航空券にした方が都合が良い(日本に戻るときにアメリカ発の格安往復を買う方がいろいろ楽である)ので、マイルを使った1年オープンの航空券を買い、マイルが大量に余っていたのでビジネスクラスにしました。ビジネスなので大丈夫だろう、と思っていたら、そんなこと無かった。。。
調子に乗って、computer science系の教科書をスーツケースに無理矢理詰め込んだのが良くなかったのですが、とにかく大きい方のスーツケースが重かった。37kgあって、制限リミットの32kgを大きく超えてしまっていました。ANAのスタッフの方がとても親切で、方法は2つ。1つは5kg分を手荷物に入れる、もう一つは段ボールをあげるから37kgを2つに分割して、2つの荷物として預けてください、とのこと。どっちも嫌だったが仕方なく後者を選択。SFOに着いてから、baggage claimのところで、こそこそと段ボールから荷物を取り出し、スーツケースにつめ直していた怪しい日本人になりました。
皆さん、くれぐれも重量オーバーにはご注意を。本は後から郵送しましょうね。


さて、次のトラブルは、SFOでのシャトルが来ない事件。タクシー高いし、電車で行くと荷物が大きいから、という理由で今回はSFOから大学までdoor to door shuttleを使いました。$30と悪くない値段なのですが、空港に着いてからシャトルに出会うまでが大変でした。
僕が選んだ会社(というかサマースクールの案内の一番上にあった会社!)は、普通のシャトル乗り場とは別のところで乗らなければならず、何度電話しても、良く分からない英語で説明され、待てども待てどもシャトルが来ない。10:30に飛行機が着いて、税関を通ったのが11:30。シャトルが出発したのが12:30だったので、1時間くらい待たされたことになります。
が、運転手のおっちゃんはとても良い人でした(電話受付のおねーちゃんがアホだったという話)。大学近くで高速道路を降りた後に良く分からないサービス。「今日はSteve Jobsの家の前を通っていこう」とか言い出して、意味不明に遠回り。笑
Jobsの家の前を通ったら、ナンバープレートの無いJobsの例の車がありました。一同「あれ、もう出勤できるようになったんじゃないの?」という疑問の中、運転手は彼の車がなぜナンバープレートが無いのかは俺にも分からんと言い続けているうちに、大学に到着。シャトルの運転手まで、Appleの経営に興味がある、というのがさすがシリコンバレーだと勝手に痛感しました。


寮のFront Deskに着いてからは、荷物が重くて大変だった以外はトラブルなく、鍵をもらい、部屋に直行しました。というわけで冒頭に戻る、です。


寮に着いた後は、最低限生きていくのに必要な物品調達をしました。
まずは自転車。キャンパスが信じられないくらい広いので、寮が生協に行くだけで徒歩20分くらいかかって死ねます。というわけで、自転車を調達。後日先輩からお古を貸していただけるということなので、ひとまずはこの週末をしのぐためにレンタルで$35。

次に、水と朝食系を買い出しにMenlo ParkのSafewayへ。Safewayというのは、まぁジャスコとかイトーヨーカドーみたいなものです。たくさん買いたいが、自転車で運べる量には限界があるので、4Lの水とパン、シリアル系のみで断念。

最後に、ベッドシーツ、まくら、毛布。これが無いと寝れない。学内のオンラインショップでも売っているけど、当日配送が難しそうなので、生協で購入。全部で$70くらいという生協プライスで助かりました。部屋に戻ってみるとベッドが大きすぎてシーツのサイズがあっていないwのですが、仕方ないw。また後でちゃんとしたものを買おうと思います(どうせ洗濯しなきゃいかんし)。

というわけで、初日はこれで終わりました。

(突然ですが)今日からシリコンバレー住みます(バイバイ、東京)

突然ですが、9月からスタンフォード大学Center for the Study of Language and Information(CSLI)というところでvisiting scholar(客員研究員)になることになりました。僕は基本は東京大学での研究活動が主な仕事なのですが、それを加速するために、スタンフォードに行くことにしました。(正確には行き来することになります。)


アメリカの大学は9月が新学期開始なので、9月からが本番ですが、その前に英語(僕は結構英語が苦手)をどうにかしようということで、英語のサマースクールに参加しつつ、研究体制の準備を整えるということをしたいと思います。というわけで、今日、東京を発って、シリコンバレーに行きます。

JTPAの第一回ツアーから5年...ようやく念願のシリコンバレー行き

実は僕はJTPAツアーの1回目の参加者なのですが、あのツアーが2004年の3月だったので、苦節5年。あのツアー以来、いつか行ってみたい、住んでみたい、現地のコミュニティに入ってみたいという想いが強くありました。

他方、現実に行こうとすると、障壁が多くなかなか足踏みしてしまう自分もいました。学生で行くには授業料が高すぎる*1、駐在員で行っても大きな仕事が出来る気がしない、現地で起業しても恐らく勝つのは難しいだろうなぁ、ということで半ば諦めかけてもいました。要は自分ではっきり行くべきかどうか分からなかったわけです。

そんなときに思ってもみない形でチャンスが回ってきたので飛びつきました。僕の場合、自慢したくなるほど運が良く、「転職(?)のご報告」で書いたような形からの発展形のかなり理想的な形で、スタンフォードに行けることになりました。

なぜ、シリコンバレースタンフォードなの?

これは良く聞かれます。

単純にインターネットビジネスで一番すごいところに行ってみたい、というだけなんですよね、僕の場合は。インターネットビジネスがパリで最も盛んだったら、パリに行ってみたいと思っていたのだと思います。

もちろん、東京も日本も素晴らしい。僕は東京という街に住んでから丁度10年になろうとしていますが、本当に大好きな街の一つです。日本にあるネットサービスにも素晴らしいものはたくさんあるのも百も承知で、実際、僕は日本で勝負し続けた方が勝つ可能性は高いのだと思いますが、それでも行ってみたいと思ってしまった自分がいました。

そういうこともあり、シリコンバレーが全てで東京は...という対立軸で語るつもりは毛頭ありませんが、せっかくなので1〜2年間、しっかり研究してこようと思います。


というわけで、本日7/2東京を発ちます。皆さんお元気で!
(PCメールは通じます。携帯メールは止まります。携帯電話そのものは現地に行ってからiPhone 3GSを買います。現地での番号が必要な方はメールください。)東京と行ったり来たりになるので、メールが一番確実な連絡手段になります。すいません。

*1:実際は奨学金でも何でもあるのだが、要はそこまで本気じゃなかったということでもあります

事務連絡:2週間ほどオフライン

本日から6月24日まで、海外に旅行(ビジネスじゃない)のため、ほとんどオフラインになります。この期間は緊急度がよほど高いもの以外は仕事しません。笑
ご迷惑おかけいたしますが、ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

「残念」合戦をものすごくポジティブに考えてみた

梅田さんの日本のWebは「残念」からの一連のウェブ上でのやり取りを見て、少し思ったことを書こうと思います。ものすごく主観的な意見で、僕の意見だけが正しいとは決して思わないけど書かずにいられないので書きます。

日本のウェブは本当に「残念」なのか

この問題は梅田さん自身が言っているように、好き嫌いの問題なのだと思います。確かに梅田さんが言うように、日本のウェブは英語圏のそれと比べて知的なもの、明るい将来に言及するものは少ないのは事実。でもこれは、ある意味日本語の弱さでもあるから仕方ない部分もあります。良い学術論文は全て英語で書かれるし、重要な特許は日本で出した後にアメリカでも必ず出願する。そう考えると、「知」が英語圏に集約するのはある意味仕方ないことでもある。「知」が英語圏に集約しているから、その「知」に触れる人たちがウェブ上で活動する機会も当然英語圏の方が多いのはある意味当たり前なのです。
他方、日本のウェブにも世界に例を見ない素晴らしいサービスもあります。例えば、レシピを調べたいと思ったときにはクックパッドがあるし(こんなにすごいレシピの集合知は世界中にないよ!)、家電を買いたいと思ったら価格comがある(こんなにすごいカタログ集合知は世界中にないよ!)。僕の観点で比較すると、英語圏は「知」つまり、中長期的に人類を豊かにする情報は圧倒的に強い。他方、日本語圏は、比較的短期的に人類を豊かにする情報はたくさんある。こういう構造なんだろうと思います。
冒頭に書いたように、ここから先は好みの問題で、梅田さん(僕もだけど)は「知」が充実している世界が好きだから、日本はその点では劣っているよねと言い、日本のブロガーはいやいや日本にもいいサービスたくさんあるよ、という話になっているのだと思います。

なぜ梅田さんが「残念」と言われてしまったのか

梅田さんがはてなの取締役で、はてなが「知」にあふれた世界と真逆に見えるから、「自分で何とかできる立場なのにそう言うなよ」という文脈で言っているのだと思います。少なくても表面的にはこういうことなんだと思います。
しかし、もう少しよく考えてみると、皆、梅田さんに期待してるんじゃないかと思うのです。梅田さんには、ウェブ進化論の時みたいにずっと明るい未来を語っていてほしい。Googleを褒めるでも構わない。とにかく、ウェブの将来は明るいんだと言い続けてほしかったのだと思います。それが急に「残念」だと言われたから、脊髄反射的に皆、攻撃的になってしまったのではないかと。
これが、僕が今回の一連のやり取りを「ものすごくポジティブに」捉えた場合の解釈です。
僕も含めて、日常のストレスの中で言いたいことが自由に言えない場合が多い人にとって、梅田さんというのは、明るい未来を「代弁」してくれる唯一の人だった、ということを皆が無意識に感じていたのではないかと気付きました。なぜこう思ったかというと、
はてなブックマーク > 日本のネットが「残念」なのは、ハイブロウな人たちの頑張りが足りないからかも知れない:小鳥ピヨピヨ
にあるはてぶのコメントを見ていると、「あぁ、皆、梅田さんに期待しているんだな」とふと思ったからです。

「残念」合戦は時計の針を戻すだけなので...

日本のネットが「残念」なのは、ハイブロウな人たちの頑張りが足りないからかも知れない:小鳥ピヨピヨに書かれているように、今回の一連の件でハイブロウな人の意見をネットで見かけませんでした。そもそもネット上にいないというのもあると思うのですが、ある意味、今回の一連のやり取りの真の相手はこの「ハイブロウ」な人たちだと思うのです。
ネットユーザーと梅田さんが相互に攻撃しあうと、梅田さんはもう何も書かなくなり、ネットユーザーは「ハイブロウ」な人たちに対抗する手段を失う。これじゃ、ウェブ進化論以前に逆戻りなんじゃないかと思うのです。
確かに日本は「ハイブロウ」な人が既得権を守ろうとし、彼らはネットにも出てこない。僕も含めて「ハイブロウ」じゃない人がネットに集まって陰口をたたく傾向にある。と、言い切ってしまうのは実に簡単なんですが、皆でこう言い合っても何も生まず、どんどん「ハイブロウ」な人たちの既得権が増すばかりで、僕たちは皆で損をするだけの構造にしか見えません。
じゃ、どうすればいいんだよ、と言われると難しいのですが、少なくても僕は梅田さんにはこれまで通りネットユーザーを代表して「ハイブロウ」な人たちに食い込んでいってほしいし、ネットユーザーはそれを支援するという以前の構造に戻ればいいなぁと思います。
僕自身も微力だけど、ブログを書いたり、サービスを作ったりという行為を通して、少しでもそういう見えない既得権と戦っていきたいと強く思っています。

最後に余談だけど「はてなブックマーク」に関して

これは完全に余談、かつ、私見ですが、はてなブックマークに関して。今回の一連の件の舞台がはてぶだったこもあり、批判の対象にもなっていますが、僕は「はてなブックマーク」は世界で最もいけてるSBMだと思っています。deliciousと比べても圧倒的に良くできていて、ぶっちぎりで勝っていると思います。サイトの哲学だけでなく、UI、SEO等まで含めた総合力で、2009年現在のコミュニティサイトとしての教科書にもなるのではないかと思えるくらいの出来ではないかと、お世辞ではなく感じています。(僕にもこんなのが作れたらなぁと強く思います。)
でも、一連のエントリーで批判されているように、誹謗中傷のようなコメントもある程度あり、ネットの「負」の部分の象徴のように言われ始まっているのがとても残念です。確かにまだまだ改良の余地が多々あると思うのですが、仮に僕がアドバイスを求められたら、こう言うと思います。

はてなからはてなブックマークを独立させて「はてなブックマーク(株)」(仮)を作る。資本もきちんとリスクマネーを入れて、Exitを前提にした経営をする。
はてなブックマーク(株)(仮)は、日本の現実社会との折り合いをとことんつける。営業マンをちゃんと雇用して、リアルメディアに近いところととにかく折り合いを付けていく。力業でもいいから、ネットの世界だけでとどまらないように、ウェブのパワーをレバレッジして、あらゆる情報を民主的に評価するツールにする。
(今ははてなユーザーしか使っていないから売上がほとんど無いように見えるけど)リアルと徹底的に折り合いを付けていくから売上もちゃんと立つ(というより立てる)。はてなブックマークというツールが、(力業でも何でも)リアルメディアに食い込んでいけばいくほど、ネットユーザーの声の重要性が社会的にパワーを持ってくる。(だから「ハイブロウ」な人たちも無視できなくなる。)

こういう事業計画を立てると思います。(完全におせっかいですいません。)僕は、はてなブックマークはてなのサービスで最も好きで、かつ、「ハイブロウ」な人たちも含めた日本を変えるパワーを持っていて、かつ、事業的にも最も大きくできるサービスだと思っているのです。

Google Wave is Great but...

Google Wave見ました。これはすごい。どうすごいかを少し考察した後、but...の後に僕が考えていることを整理したいと思います。

「全てをHTTPベースで規定し直す」というGoogleの根底にある哲学

ご存じの通り、WaveはHTTPプロトコルで動作するSMTP「のような」ものだと良く言われる。これまでのウェブの世界ではWaveで行われるような通信は通常、HTTPではなくIRCSMTPで行われてきた。
HTTPというのはどういう仕組みかというと、

  1. クライアント(ブラウザ)がサーバーにリクエストを出す
  2. サーバーが応答し、データ(headerとbodyから成る)をクライアントに返す
  3. サーバーがデータを全て送信し終わると、クライアントとサーバーの接続は切断される。

という仕組みだ。この仕組みはご存じの通り、「多くのクライアントへ(1カ所で集中管理された)情報を渡す」という点で非常に効率的に設計されている。

他方IRCSMTPにもそれぞれ得意な用途というのが存在しているわけで、そこは一長一短である。通常のIRCなら備えている「プッシュ通知」(相手がチャットでしゃべったらこちらに通知される仕組み)は、実はHTTPで実現しようとすると思いの外大変だ。通常、ウェブサーバーはデータを転送し終わると接続を切断するように設計されており、このままでは「プッシュ通知」ができない。サーバー・クライアント間のコネクションを張りっぱなしにしておけば、その分だけリソースを大きく消費してします。普通のPCサーバーでApacheを動かすと同時接続数が1000も行けばかなり良い方だと思う。そこで、GoogleはCometという技術を使って、この問題を解決したわけだが、本来のHTTPの用途からすれば、はっきり言って滅茶苦茶なことをやっているとも言えなくはない。

では、何故グーグルはそこまでして、HTTPベースにこだわるのか。第一に、彼らの戦略上、特に対MSという文脈においては、全てがブラウザで完結するということの意味は大きい。ブラウザさえあれば、ハードもOSも関係ないよ、という世界こそ彼らにとって理想の水平統合状態だ。
ただ、それだけではないだろう。第二の理由は、HTTPの思想である「多くのクライアントへ(1カ所で集中管理された)情報を渡す」というHTTP、いやウェブの仕組みそのものこそが最高に優れているとグーグル自身が陶酔しきっているようにも見える。今回の一連のWaveの件は、とにかく全てをウェブらしく再規定する、というグーグルの意思表明にも見えるのだ。

早すぎたLingr

Cometの件も出てきたし、Lingrに触れずにはいられない。今回のGoogle Waveのリリースは、Lingrが如何に早すぎたかということを証明してしまった。はっきり言って、Google WaveLingrそのものだ。
2006年9月、僕はシリコンバレーで江島さんに会い、Lingrの裏側がどうなっているかを説明してもらった。その時は、まぁそりゃそうやれば同時接続数を増やせるよね、という技術的な理解のみをして分かった気になっていたが、LingrがやりたかったことはGoogle Waveそのものなんだろうと思った。恐るべし江島健太郎。
唯一残念なのは、GoogleLingrに敬意を払って買収なり、営業譲渡なりがなされなかったことだけだ。

Wave is Great but...

最後に、but...の後ろの部分の話を少しだけ。
ウェブの世界はアプリケーションが全てだ。どれだけ良いテクノロジーやプラットフォームがあってもユーザーが集まらないものに価値は無い。その意味において、Twitterはすごい。裏側のシステムは今でも滅茶苦茶だろうけど、そんなことは関係なく彼らはすごい。

はっきり言おう。Google Waveのアプリケーションが上手くいく気がしない。
まず、単に既存のwikiやIMをウェブ版に直したくらいでは、スイッチングコストが大きすぎるためユーザーは動かないだろう。そして何より、前述のLingrが考えられる限りベストな方法でアプリケーションを作ったが上手くいかなかった。そう、僕はGoogle Waveのプラットフォームを使ってLingr以上にいけてるアプリケーションを作られる気が全くしないのだ。

Waveはコミュニケーションのプラットフォームになる、というけれど、本当にコミュニケーションのプラットフォームということの意味を分かっているかい?
コミュニケーションというのは最もネットワーク外部性が効くから、スイッチングコストが大きいんだよ。
アドレス帳が移動できないとしたら携帯電話キャリアを代えようと思う?
あるいは、今から自分のskypeのコンタクトリストの全員に1通ずつ新しいサービスのinvitationを送ろうと思う?


全てをHTTPで規定しなおすという思想には共感するけど、先はまだ長そうだ。

オープンソースとコアコンピタンス

オープンソース的な何か」について日々考えている。

オープンソース的な何か」と言っても、ライセンスの問題に興味があるわけではない。オープンソースが発達した場合に、イノベーションの形態にどのような影響がもたらされるかについてだ。この吉岡さんの素晴らしい記事にインスパイアーされたので書いてみる。

イノベーションはどっかで起こっている(東京で)

Innovation Happens Elsewhere (IHE) -- イノベーションはどっかで起こっている
オープンイノベーションの究極の姿はOSSオープンソースソフトウェア)である。LinuxハッカーPerlハッカーRubyハッカーも全部社外にいる。社外のイノベーションを取り込んで自社のサービスの根幹に据える。そして、すべてのイノベーションが外部にあるときに、どうやって自社のサービスの付加価値を高めるのか。
イノベーションの外部化だ。その時のビジネス戦略はどのような形になるのだろう。

通常、イノベーションは最終的には、営利企業にて起こる。イノベーションの源泉は大学や研究所である場合もあるが、最終的に社会に便益を享受させる役割を担うのは企業である。企業は資本主義というメカニズムの中で、圧倒的な加速度を持って、イノベーションを起こしていく。

競争戦略というのは、競争企業との格差を作り出すこととイコールである。自社にはあって他社には無い何かを作り出さない限り、競争には勝てない。オープンソースが発達すると、矛盾が起こる。自社「だけ」が知っていることを強みにしたいという(経営側の)考え方と、多くの先進的な知がオープンになっているという事実が矛盾する。

自社で利用する技術の大半がオープンソースであるというのは、経営的には信じられないくらい怖いことだ。一見、自分たちの強みがどこにあるのかを見失わせるからだ。水平統合を目指すにせよ、垂直統合を目指すにせよ、オープンソースに依存するということは、経営的にはものすごく怖いことなのだ。

だが、そうせざるを得ない理由が二つある。

第一の理由は、オープンソースの方が性能が良いという点である。垂直統合を目指して、閉じたイノベーションを目指した製品と、多くのエンジニアのちょっとずつの時間によって生まれた製品は圧倒的に後者の方が出来が良いということはもはや歴史が証明しつつある。WindowsよりもLinuxが、IISよりもApacheの出来が良いのは偶然ではない。

第二に、オープンソースを採用した瞬間に、圧倒的に多くのドキュメントがウェブ上にあることに気づく。垂直統合を目指している限り、参照すべき文書はイントラネット上に存在するものだけだ。これは従来であれば当たり前のことだった。ところが、オープンソースを採用した場合、多くのドキュメントは検索エンジンから探すことになるだろう。20年前に一体誰が、社内の開発上の問題を解決するのに社外の文書が役立つようになると想像していただろうか。つまり、オープンソースを採用することで、企業から見れば、(1円も給与を払っていない)他人の知までも利用することができるようになるのだ。

こうなると、必然的にオープンソースを採用せざるを得ない。だが、そうすることで益々コアコンピタンスが分からなくなる。この問題こそが現代の経営者が解くべき問題なのだと思う。要はバランスの問題なのだ。AppleAmazon Webserviseもオープンソースを採用している。だが、コアコンピタンスも明確に存在する。このバランス感覚こそ、オープンソース時代の経営者の条件なのだ。